「前もバーだったお店を居抜きで借ります。設備はそのまま使えると思うのですが、保健所の検査では何を見られますか」
熊本でバーやスナックを開く方から、よくいただくご質問です。前のお店が営業していたのだから、そのまま許可が出るだろうと考えがちですが、そうとは限りません。
結論から書きます。居抜きでも、新しく営業する人が飲食店営業許可を受け、保健所の現地の検査で施設の基準に合っているかを確かめられます。 基準は令和3年6月1日に新しくなっていて、それより前に許可を受けたお店の設備は、今の基準に合っていないことがあります。とくに見られやすいのが、手を触れずに開け閉めできる蛇口の手洗い設備と、冷蔵庫に付ける温度計です。
この記事では、居抜きでも許可が新しく要る理由、熊本の施設の基準、検査で見られる主な設備、申請から許可までの流れを順に説明します。
この記事のポイント
- 飲食店営業許可は、営業を営もうとする人が受けます。前のお店の許可を、そのまま使って営業することはできません
- 熊本県の施設の基準は「熊本県食品衛生基準条例」で決まっていて、熊本市も同じ条例を施設の基準として案内しています
- 手洗い設備は流水式で、手指を洗浄・消毒する装置が付き、洗ったあとの手指が再び汚れない構造の蛇口(レバー式・足踏み式・センサー式など)であることが求められます
- 冷蔵・冷凍などの設備には温度計を備えます
- 熊本市では、現地の調査で施設の基準に合っていると認められた日が許可の日です。基準に合うことが確かめられなければ許可されません
居抜きでも、新しく営業する人が許可を受ける

飲食店営業を営もうとする人は、許可を受けなければなりません(食品衛生法第55条第1項)。申請書は施設の所在地を管轄する都道府県知事等に出します(同法施行規則第67条)。熊本市内のお店は熊本市保健所、それ以外の熊本県内のお店は熊本県の保健所です。許可は、営業の施設が施設の基準に合うと認められたときに出ます(食品衛生法第55条第2項)。
許可は「その施設で、その人が営業する」ことに対して出るものです。前のお店の許可は前の営業者のものなので、居抜きで借りた新しい営業者が、前の許可で営業することはできません。前の営業者から営業そのものを譲り受けた場合は、許可を受けた人の地位を引き継ぐ手続き(承継の届出)になります(同法第56条)。お店の内装や設備だけを借りる・買う場合は、新しい営業者が自分で許可を申請します。
前の営業者は、廃業したときに廃業の届出を出すことになっています(食品衛生法施行規則第71条の2)。
施設の基準は熊本県の条例で決まっている

飲食店などの施設の基準は、厚生労働省令で定める基準を参酌して、都道府県が条例で定めます(食品衛生法第54条)。熊本県では「熊本県食品衛生基準条例」がこれに当たり、すべての業種に共通する基準(別表第1)と、業種ごとの基準(別表第2)を定めています(同条例第2条第1項)。熊本市のホームページでも、営業許可の施設の基準として、この条例が示されています。
この基準は、令和3年(2021年)6月1日に改正されました。熊本市の案内には、新しい施設の基準は、令和3年6月1日以降に取得する許可から適用されると書かれています。居抜きのお店で新しく許可を受けるときは、前のお店が許可を受けた時期にかかわらず、今の基準で見られるということです。
また熊本市は、現地の検査で施設の基準に合っていることが確かめられない場合は許可できないとしています。内装に手を入れる前に図面で基準に合うかを確かめておくことが、開業を遅らせないいちばんの近道です。
手洗い設備は「手を触れずに開け閉めできる蛇口」

条例は、手洗い設備について次のように定めています(別表第1 第3項第8号)。
- 従業者の手指を洗浄し、消毒する装置を備えた流水式の手洗い設備を、必要な数そなえること
- 蛇口(水栓)は、洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造であること
熊本市の案内では、手洗い設備には手指で触れることなく開け閉めできる蛇口が必要とされ、例としてレバー式の蛇口・足踏みペダル式・センサー式が挙げられています。熊本市の案内では、ハンドルをひねって開け閉めする蛇口は「×」とされています。
前のお店がこの改正の前から営業していた場合、手洗いの蛇口が古い形のままのことがあります。居抜きの物件を見るときは、まず手洗いの蛇口を確かめ、取り替えが要るなら内装の工事に入れておきます。
また、従業者用の便所には、便所専用の流水式手洗い設備が要ります(別表第1 第3項第12号)。
冷蔵庫には温度計を備える

食品を衛生的に扱うために必要な冷蔵・冷凍設備を、必要に応じてそなえます(別表第1 第3項第10号)。そのうえで、冷蔵・冷凍・殺菌・加熱などの設備には温度計を備えることが求められています(同 第4項第6号)。
居抜きで残っている冷蔵庫に温度の表示が付いていないときは、庫内に置く温度計などで、温度を確かめられるようにしておきます。
あわせて、原材料を種類と特性に応じた温度で保管できる設備と、洗剤・消毒剤などの薬剤を食品と分けて保管する設備も求められます(同 第3項第13号)。
そのほかに見られる主な設備

条例の共通の基準(別表第1)には、ほかにも次のようなものがあります。
| 設備 | 基準の中身 | 条例の場所 |
|---|---|---|
| ごみの容器 | 不浸透性で十分な容量があり、清掃しやすく、汚液や臭いが漏れない構造 | 第3項第14号 |
| 床・壁・天井 | 清掃・洗浄・消毒がしやすい材料と構造。清掃に水が要る施設は、床を不浸透性にし、壁にも腰張り | 第3項第3号・第4号 |
| 住居との区画 | 住居など食品を扱わない部屋が同じ建物にあるときは、区画されていること | 第2項 |
| 清掃用具 | 作業場を清掃するための専用の用具と保管場所 | 第4項第7号 |
| 給水 | 水道水など飲用に適する水を、必要な場所に十分に供給できること | 第3項第6号 |
なお、そのままの状態で食べられる食品を器に盛る、そうざいの半製品を温める、といった簡易な調理だけをする飲食店(簡易な営業)は、食品衛生上支障がないと認められる場合に、床・壁の材料、床の排水設備、冷蔵設備の置き場所、調理場の区画について、扱いをゆるめることができるとされています(別表第1 第5項第2号)。どこまで当てはまるかは、出すメニューと調理の仕方で決まります。当法人では、メニューを伺って、どの基準で準備するかを整理します。
食品衛生責任者と、申請から許可まで

飲食店の営業者は、食品衛生責任者を定めます(食品衛生法施行規則 別表第17 第1号イ)。熊本市の案内では、原則として施設ごとに置くこととされています。食品衛生責任者になれるのは、調理師・栄養士・製菓衛生師などの資格がある人か、都道府県知事等が行う(または適正と認める)講習会を受けた人です(同号ロ)。熊本市では、申請のときに食品衛生責任者の氏名と資格を書けばよく、資格の証明書を出す必要はないと案内されています。
申請書には、施設の構造と設備を示す図面を付けます(同規則第67条第5号)。前のお店の図面があっても、新しいレイアウトと設備に合わせた図面を用意します。
熊本市の案内では、申請後、食品衛生監視員の現地の調査で施設の基準に合っていると認められた日が許可の日で、その日から営業できます。許可証は通知書に書かれた日に受け取ります(目安は許可の日から1週間程度)。飲食店営業の許可の手数料は17,000円です(熊本市。令和4年4月時点の案内)。
また、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理は、すべての営業者に求められています。許可の要件ではありませんが、許可の申請に伴う立入調査のときに、計画書の作成と記録の取組状況を確かめられます。熊本市以外の熊本県内のお店は、施設の所在地を管轄する熊本県の保健所に申請します(熊本県食品衛生法施行細則第2条第2項)。
よくある質問
前のお店と同じ飲食店営業なら、許可の名義を変えるだけで済みますか
済みません。許可は営業者ごとに出るので、新しく営業する人が許可を申請します(食品衛生法第55条)。前の営業者から営業そのものを譲り受けた場合(相続・合併なども)は、承継の届出で地位を引き継ぎます(同法第56条)。
前のお店が使っていた手洗いの蛇口は、そのまま使えますか
手指で触れずに開け閉めできる形(レバー式・足踏み式・センサー式など)なら使えます。ひねって開け閉めする形は、熊本市の案内で「×」とされているので、取り替えを考えます。新しい施設の基準は、令和3年6月1日以降に受ける許可から適用されます。
冷蔵庫に温度計が付いていないと、許可は出ませんか
冷蔵・冷凍の設備には温度計を備えることが基準になっています(熊本県食品衛生基準条例 別表第1 第4項第6号)。表示の付いていない冷蔵庫なら、庫内に置く温度計などで温度を確かめられるようにしておきます。
0時以降もお酒を出すバーにするときは、ほかに何が要りますか
保健所の飲食店営業許可のほかに、警察への深夜酒類提供飲食店営業の届出が要ります。詳しくは「熊本でバーを開くなら?0時まで・0時以降のお酒・接待ありで違う手続き」で説明しています。
出典・参考
- 食品衛生法(e-Gov法令検索)…第54条・第55条・第56条
- 食品衛生法施行規則(e-Gov法令検索)…第66条の7・第67条・第71条の2・別表第17・別表第19
- 熊本県食品衛生基準条例(熊本県例規集)…第2条・別表第1
- 熊本県食品衛生法施行細則(熊本県例規集)…第2条
- 営業許可・営業届出制度が新しくなりました(熊本市)…施設基準の改正・食品衛生責任者の設置
- 食品関係営業許可に係るよくある質問について(熊本市)
まとめ
- 居抜きでも、新しく営業する人が飲食店営業許可を受けます。前の営業者から営業を譲り受けたとき(相続・合併なども)は、承継の届出です
- 熊本の施設の基準は熊本県食品衛生基準条例で決まり、令和3年6月1日以降の許可は新しい基準で見られます
- 手洗いは流水式で、手を触れずに開け閉めできる蛇口(レバー式・足踏み式・センサー式など)にします
- 冷蔵・冷凍の設備には温度計を備えます
- 熊本市では、現地の調査で基準に合っていると認められた日が許可の日です。内装に手を入れる前に、図面で基準に合うかを確かめておきます
飲食店営業許可と、バー・スナックの開業の手続きは、当法人にご相談ください
ノーサイド行政書士法人は、熊本で飲食店営業許可・風俗営業の許可・深夜酒類提供飲食店営業の届出を支援している行政書士法人です。
- 居抜きの物件を契約する前に、手洗い・冷蔵設備などが今の基準に合うかを一緒に確かめます
- 保健所に出す図面を、新しいレイアウトに合わせて作ります
- 飲食店営業許可から警察への届出・許可まで、開業日から逆算して段取りします



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